インド

平成24年度政府開発援助海外経済協力事業委託費による「案件化調査」
ファイナル・レポート

インド国
高性能定温輸送容器によるワクチン及び臨床検体・治験検体の輸送品質改善に関わる調査

平成25年3月(2013年)
株式会社スギヤマゲン・株式会社東京医療コンサルティング共同企業体

本調査報告書の内容は、外務省が委託して、株式会社スギヤマケン・株式会社東京医療コンサルティング共同事業体が実施した平成24年度政府開発援助海外経済協力事業委託費による案件化調査の結果を取りまとめたもので、外務省の公式見解を表わしたものではありません。
また、本報告書では、受託企業によるビジネスに支障を来す可能性があると判断される情報や外国政府等との信頼関係が損なわれる恐れがあると判断される情報については非公開としています。なお、企業情報については原則として2年後に公開予定です。

"Project Formulation Survey"Summary Report

The research to improve the transportation quality of vaccines, specimens and clinical samples by high-performance isothermal transportation container.

 


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目 次
巻頭写真・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 3
略語表・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 4
要 旨・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 5
ポンチ絵・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 9
はじめに・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・11
第1章 インド国における当該開発課題の現状及びニーズの確認
1-1 インド国の政治・経済の概況・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・14
1-2 インド国の対象分野における開発課題の現状・・・・・・・・・・・・・15
1-3 インド国の対象分野の関連計画、政策及び法制度・・・・・・・・・・・18
1-4 インド国の対象分野のODA事業の事例分析および他ドナーの分析・・・20
第2章 提案企業の製品・技術の活用可能性及び将来的な事業展開の見通し
2-1 提案企業及び活用が見込まれる提案製品・技術の強み・・・・・・・・・23
2-2 提案企業の事業展開における海外進出の位置づけ・・・・・・・・・・・25
2-3 提案企業の海外進出による地域経済への貢献・・・・・・・・・・・・・26
2-4 想定する事業の仕組み・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・27
2-5 想定する事業実施体制・具体的な普及に向けたスケジュール・・・・・・29
2-6 リスクへの対応・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・30
第3章 ODA案件化による対象国における開発効果及び提案企業の事業展開効果
3-1 提案製品・技術と当該開発課題の整合性・・・・・・・・・・・・・・・32
3-2 ODA案件の実施による当該企業の事業展開に係る効果・・・・・・・・37
第4章 ODA案件化の具体的提案
4-1 ODA案件概要・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・38
4-2 具体的な協力内容及び開発効果・・・・・・・・・・・・・・・・・・・39
4-3 他ODA案件との連携可能性・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・43
4-4 その他関連情報・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・43
現地調査資料
資料1 調査スケジュール
資料2 面談記録
資料3 記録写真
資料4 ワクチン接種チェックシート(Pune Municipal Corporation)
資料5 収集資料リスト
資料6 ワクチン輸送用ボックスの必要量
資料7 カルナトラスト(Karuna trust)組織図

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別 添
1.「バイオボックス・プラス」プレゼンテーション資料(パワーポイント)
2.Handbook for Vaccine & Cold Chain Handlers
3.VACCINE WASTAGE ASSESSMENT
4.Karuna trust(パンフレット)

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(注釈)
左上の写真・・・ワクチン接種するために移動車に入る順番を待っている写真。
NIRAMAYというNGOの支援のもと、幼稚園の近くで移動車でワクチン接種を行っている。
左下の写真・・・ワクチン接種用の移動車で赤ちゃんにワクチンを接種している写真。
右上の写真・・・Govt. of Maharashtra controlling the entire cold chainのワクチントレーニングセンターでインストラクターがコールドボックスの使い方を説明している写真。
右下の写真・・・ワクチン接種用の移動車で幼稚園児にワクチン接種をしている写真。

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略語表
BCG Bacillus Calmette- Guerin (vaccine against tuberculosis)
結核に対するワクチン
CRO Contract Research Organization 医薬品開発業務受託機関
DPT Diphtheria, Pertussis, Tetanus
ジフテリア・破傷風・百日咳に対するワクチン
HepB Hepatitis B B型肝炎に対するワクチン
OPV Oral Polio Vaccine ポリオワクチン
PCM Phase Change Material 相変化物質
PQS Pharmaceutical Quality and Safety 医薬品品質および安全
TT Tetanus Toxoid 破傷風に対するワクチン
UNICEF United Nations Children's Fund 国連児童基金
UPA United Progressive Alliance 統一進歩連盟
VIP Vacuum Insulation Panel 真空断熱パネル
WHO World Health Organization 世界保健機構

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要 旨

はじめに
ワクチンや温度管理を必要とする医薬品、医薬品開発のための治験薬や治験検体、病気を診断するための臨床検体等を、適切な温度管理下で輸送することは、人々の健康のために重要である。
インド国は広大な国土と多様な自然環境を有するので、医療保健分野で定温輸送を必要とする物資の輸送システムに関して改善の余地があるという点が本調査の背景であった。
そこで、簡単な使用手順により、電源の得られない環境でも、長時間の保冷・定温輸送が実現可能な定温輸送容器「バイオボックス・プラス」のインド国への導入を図り、インド国内の隅々までワクチン等の薬品を保冷・定温・長距離輸送できる体制を実現するための方法を検証することとした。
このために、
①インド国のワクチン、治験薬、治験検体、臨床検体の高精度定温輸送に係るニーズ調査②①を踏まえたODA案件の提案について関係者との意見交換
③法規制、知的財産権保護、委託生産、ODA事業後の普及方法についての調査
を本調査の目的とした。
調査を行うに当たっては、国内での情報収集に加え、平成24年12月から平成25年1月にかけて合計3回に渡り、インド国での現地調査を実施した。主な調査先は、政府機関、民間企業、輸送会社、病院、ワクチン接種所等とした。
第1章 インド国における当該開発課題の現状及びニーズの確認
インド国は、世界第2位の人口を有しており、1990年代から順調な経済成長を続けている。その一方で、国民の所得格差や地域格差が拡大しつつあり、インフラ整備が経済成長に追いついていない現状がある。そこで、インド国政府は、庶民を意識した「包括的成長」、「平等な発展」を目標として掲げ、農村開発、女性・貧困層等の社会的弱者対策、雇用対策、行政の透明性向上等の政策に力を注いでいる。医療保健分野では、ワクチン接種に特に注力している。
インド国は医薬品の製造開発、特に低コストのワクチン製造において世界の中心地となっている。途上国に向けた革新的で手頃な価格の高品質なワクチンの開発をリードし、成長する国内市場だけでなく国際市場にも供給する上で重要な役割を担っている。
今回の調査でわかったことは、インド国の中央政府の高官は非常に優秀で、上手にVaccination Programをつくり、その実施を州政府、UNICEF、NGO等に任せているようであった。しかし、その実施に関してはどのようにうまくいっているかどうかのデータを持ち合わせていなかった。
これは、UNICEFのVaccine Wastage Analysis(2010)からも明らかで、データ分析すると、全体不良廃棄率は非常に高いことがわかった。
ワクチンの接種の実施は州政府の末端の管轄であるが人手が足らず、結局、沢山のNGOが活躍しているようであった。

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現在、UNICEFは末端の接種のサポート(例えばコールドチェーン・マネジメントの訓練)をしていて、直接的には接種に従事していない。
また、インド国政府は援助受け入れ国・機関を限定しており、インド政府は政策実施におけるオーナーシップを強く持っており、インド政府の主導のもと、ドナー間の援助協調が進められている。例えば、我が国は10 年以上にわたり、UNICEFとの連携により他の国連機関や世界銀行等とともにポリオワクチンの無償供与を実施している。なお、ドナー間の情報・意見交換は活発に行われている。
次にインド国の法制度であるが、雇用しようとする人がworkmanに当たるかnon-workmanに当たるかにより、適用される法律や保護の内容等がかなり変わってくるので、そのあたりの認識が必要である。
また、中央政府が定める労働法に加えて、州ごとに異なる労働法があるが、特別に際立って変わった法律はないと考える。州法で重要な法律としては、Shop&Establishments法が挙げられる。この法律は州法だが、労働時間や休暇など基本的な労働条件を定めている。
特許ライセンスが法的に有効と認められるためには特許権のライセンス契約の登録が必須である。商標権のライセンスは第三者対抗要件であり登録は必須ではない。営業秘密ライセンスについては、登録制度はない。
インド国と我が国の関係では、インド国から見て日本は最大の二国間ドナーであり、また日本から見てインド国は2003年以来円借款の最大級の受取国となっている。
インド国は急速な経済成長や活発な外交活動を通じて国際社会における存在感を高めつつあるとともに、南アジアにおいて大きな影響力を有している。
我が国としても、経済協力を通じてインド国との間に安定した二国間関係を築き、インド国の持続的発展を確保することは、南アジア地域の平和と安定、さらには、我が国を含むアジアの平和と安定にとり極めて重要である。
第2章 提案企業の製品・技術の活用可能性及び将来的な事業展開の見通し
株式会社スギヤマゲンの「バイオボックス・プラス」は真空断熱パネル(VIP)を搭載した高性能定温輸送容器である。温度変化の激しい環境下でワクチンや医薬品の輸送に必要な温度帯「2℃~8℃」を最大10日程にわたり、高精度に維持することが可能である。
特に、競合製品と差別化できる点は、収納品の凍結を防げることである。
輸送対象は、ワクチン、治験薬、治験検体が主であり、株式会社スギヤマゲンは社会貢献度の高い事業として、グローバル・スタンダードと成り得る容器と輸送システムの構築を重要テーマに掲げている。
これまで日本国内で本製品は公的機関も含めて広く活用され、高い信頼性を証明してきた。この実績を踏まえ、株式会社スギヤマゲンは特にアジア地域での事業展開を開始しているところである。
インド国市場は国際的にも重要な位置を占めており、容器メーカー数も多く競争も激しい。しかし、現行の容器の問題点を探り、製品の改善を行うと共にコスト競争力のある製品を提案することで、一定のシェアを獲得するチャンスが得られると推測している。
インド国において「バイオボックス・プラス」はワクチン、治験薬、治験検体の輸送状況を改善できる製品で、インド国民の健康増進に貢献する製品である。

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インド国での販売・技術展開に取り組むことにより、インド国市場のニーズや実情に合った仕様や製造コストを実現する。
また、インド国における新たなビジネスモデルとしてのリユース、リサイクルの仕組みを構築し、インド国市場でのデファクト・スタンダードとなることを目指すことが戦略である。
当初は現地代理店を通じ、日本で製造された「バイオボックス・プラス」の販売を行うが、将来的には現地生産も視野に入れており、それによる現地雇用の増大も見込んでいる。
第3章 ODA案件化による対象国における開発効果及び提案企業の事業展開効果
ワクチンは凍結した場合、効力を持たないものとして廃棄され、人に接種されるべきものではなくなる。
インド国は高温になる地域が多いことから、ワクチンが高温に晒される危険は常に存在する。一方で、UNICEFは凍結によるワクチンの効力の低下について注意している。
インド国の公的レポートでも凍結リスク(フリージングリスク)の記載がある。
実際に、ワクチン接種を実施する地元NGOで、接種前にワクチンが凍結していたかを確認する作業手順が守られておらず、凍結してしまったワクチンが接種されている可能性があるという情報を得た。
ワクチンに関するコールドチェーン・マネジメントでは、冷凍庫で凍らせたアイスパックが標準的に使用されており、凍結防止についてはボックスの機能でなく、使用手順を各自が守ることで防ごうという考えである。しかし、ワクチンを管理、輸送、接種する人員は非常に多く、調査中にはマニュアルが守られていないのではないかという声もあった。
「バイオボックス・プラス」が提供する定温輸送の機能は、高温暴露のリスクを低減すると共に、過冷却を防ぎ凍結リスクを払拭できるものである。
また、「バイオボックス・プラス」は使用前の準備が簡単なので、オペレーションがシンプルでトレーニングが簡単である。
これらの要素から、「バイオボックス・プラス」を導入することで、インド国のワクチンに関するコールドチェーン・マネジメントの品質向上に寄与できると考える。
今後の事業展開として、厳しい温度管理が必要な医薬品の増加、国際共同治験の活発化等により、インド国で受け入れられる製品を提供できるようになることで、国際的な需要の拡がりが見込める。
第4章 ODA案件化の具体的提案
ODAスキームとしては、官民連携草の根・人間の安全保障無償資金協力(以下、「草の根無償」という。)を活用する。
カウンターパートはカルナトラスト(Karuna Trust)というインド国のローカルNGOである。このローカルNGOは、FCRA(中央政府管掌) に登録されている団体であり、25年に渡り活動している。特に医療保健分野に注力しており、インド国南西部を中心に、インド国全体で75のHealth Unitを管轄し、日々、住民にワクチン接種を実施している。
このNGOから聴取した現状の問題点としては、
・どの程度のワクチンが凍結により失効しているかに関する報告書はなく正確な情報を把

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握しているわけではない。
・しかしながら、経験上ワクチンの凍結は起こっていると見受けられる。ただし、気づかれないか、無視されているのが現状である。
・実態としては、凍結して失効したワクチンがそのまま接種され、報告もされない。
・管理温度の高温方向の逸脱によるワクチンの失効という問題は確実に存在する。
・ワクチンのコールドチェーン末端の現場作業者(ワクチンハンドラー)が、マニュアルを守らず、温度管理、凍結防止に失敗している可能性も考えられる。
というものである。
なお、UNICEFにおいて凍結によるワクチンの廃棄が1.4%であるという情報を得た。
そこで本案件では、適正に温度管理されているワクチンの接種を実行できるよう、接種ワクチンの温度管理状況を調査する。その後、ベースライン情報としてワクチンの不良廃棄率の調査をする。
上記の調査結果を分析した上で改善策を策定し、実施するとともに、「バイオボックス・プラス」の取り扱いトレーニングを行った後、ワクチンのコールドチェーンに関する機材の見直しとして、「バイオボックス・プラス」をワクチン輸送に導入する。
その後、特にワクチンの凍結等による廃棄率の削減にどの程度寄与したかを調査する。
ワクチン接種に関する手順と考え方を適正にするために、分かり易く実戦的なマニュアルを作成し、ワクチンハンドラーと呼ばれる人員のトレーニングを行う。
実施体制としては、NGOから数名と、共同企業体である株式会社スギヤマゲンと株式会社東京医療コンサルティングからプロジェクトメンバーを数名選抜し、平成25年中頃に官民連携草の根・人間の安全保障無償資金協力プロジェクトを申請、平成26年初旬のプロジェクト開始を目指す。
なお現時点でNGOカルナトラストのバックアップとして2つのNGOとも継続してコンタクトを取っている。

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はじめに

1.調査概要
(1)本調査の背景
今般の調査対象国であるインド国は、広大な国土を持ち、西部には砂漠地帯、北部にはヒマラヤ山岳地帯に広がるツンドラと氷河、南部には熱帯雨林と多様な環境にある。
都市部では開発が進み、生活水準は向上しているが、地方ではまだまだ発展途上の段階であり、地域格差が大きくなっている。過酷な道路状況や気象および生活環境を考慮すると、温度管理を要する長距離輸送は厳しい。
一方で、ワクチンや温度管理を必要とする医薬品、医薬品開発のための治験薬や治験検体や病気を診断するための臨床検体等について適切に温度管理を行って輸送することは、人々の健康のために重要である。
現在、インド国では一般的な保冷容器が使用されているが、保冷・保温性能が弱い発泡スチロールやウレタン製等の一般的な保冷容器では、大量の保冷剤を必要とする。僻地・過疎地では、こうした保冷剤のみならず、十分な保冷設備がないことが問題となっていると考えられる。また、保冷設備があったとしても頻繁に発生する停電で使えなくなるケースも多いと思われる。
そこで、本調査では大幅に少ない量の保冷剤、蓄熱材で、簡単な使用手順により、電源の得られない環境でも、長時間の保冷・定温輸送を実現可能な、定温輸送容器「バイオボックス・プラス」のインド国への導入を図り、インド国内の隅々までワクチン等の薬品を保冷・定温・長距離輸送できる体制を実現するための方法を検証することとした。
(2)調査の目的
今般の調査は、以下の①~③を目的とする。
①インド国のワクチン、治験薬、治験検体、臨床検体の高精度および定温輸送に係るニーズを各種関連資料の整理・分析、同国政府機関、現地企業へのヒアリングを通じて可能な限り網羅的に把握し、具体的なODA案件の提案のための情報収集を行う。
②インド国の開発課題に貢献し、かつ費用的にも事業性が期待される技術・システムであっても、人材、資金、物質、情報等の不足により導入が阻害されることも考えられる。この点に鑑み、各国の現状・特性を踏まえたODA案件の提案について関係者と意見交換を行う。
③法規制・知的財産権保護・コストダウン等のための現地の部分的な委託生産やODA事業後の普及を想定した普及方法について調査を行う。
上記のように、調査対象国のワクチン、治験薬、治験検体、臨床検体の高精度定温輸送に係る支援ニーズ及び我が国の中小企業が有する製品・技術を調査し、中小企業等の海外展開と途上国の課題解決の両立を図る。

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(3)調査の基本方針
①インド国では、医療、薬品関連物流における温度管理の実情と課題を正確に見極めるため、現地の政府機関、製薬会社、CRO、物流企業、ワクチン接種所(病院、ヘルスセンター等)の生の声を集める。
②インド国僻地・過疎地を含む全地域に品質の安定したワクチンや治験薬、治験・臨床検査検体の管理温度を遵守した輸送に係る課題解決に貢献すべく、各地の現状・特性を踏まえたODA案件の提案について関係者と意見交換を行う。
③日本国内では、主要都市におけるワクチンの定温保管施設・ワクチンの定温輸送に係るニーズや各種関連資料を収集し、整理・分析すると共に、日本国内の同国政府機関、現地に進出企業している日本企業へのヒアリングを通じて可能な限り網羅的に把握し、具体的なODA案件の提案のための情報収集を行う。
④事業性が期待される技術・システムであっても、人材、資金、物質、情報等の不足により調査国での導入が阻害されることも考えられるため、法規制・知的財産権保護・コストダウン等のための現地での部分的な委託生産やODA事業後の普及を想定した普及方法についても調査を行う。
(4)調査実施上の留意事項
以下の2点については、調査実施の際、留意することとする。
①調査後の展開として、草の根技術協力事業や草の根・人間の安全保障無償資金協力、ノン・プロジェクト無償等を視野に入れ、トライアルとしての製品投入を含めて幅広く調査・検討を行う。
②WHO、UNICEF等国際機関における現地調達の仕組みや方法等の調査を行う。
2.団員リスト
杉山 大介(株式会社スギヤマゲン)
根来 知史(株式会社スギヤマゲン)
藤井 健介(株式会社スギヤマゲン)
石川 悦美(株式会社スギヤマゲン)
尊田 京子(株式会社東京医療コンサルティング)
西田 俊明(株式会社東京医療コンサルティング)
赤松 辰彦(株式会社東京医療コンサルティング)
鈴木 りえこ(株式会社東京医療コンサルティング)
3.スケジュール
 第1回インド国訪問/デリー
調査期間:2012年12月9日(日)~2012年12月14日(金)
 第2回インド国訪問/ムンバイ・プネ
調査期間:2013年1月6日(日)~1月13日(日)
 第3回インド国訪問/デリー・バンガロール
調査期間:2013年1月20日(日)~2013年1月27日(日)

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(注)一部の団員については、この日程と前後する形で現地調査を行っている。

 


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第1章 インド国における当該開発課題の現状及びニーズの確認
1-1 インド国の政治・経済の概況

インド国は、世界第2位の人口を有しており、1991年に8億4,600万人(注1)だった人口は、2011年には12億1019.3万人(注2)に増加した。
実質国内総生産(GDP)成長率は、1947年に独立して以来1970年代まで3~4%であったが、部分的な自由化政策が実施された1980年代には平均5.6%になった。
その後、1991年の経済危機を機に、国内投資規制の撤廃、変動相場制への移行、外国通貨投資の規制緩和、貿易自由化等を骨子とする経済改革を実施し、本格的な経済自由化政策が推し進められた。その結果、1990年代の経済成長率は、年平均6.4%へと上昇した。
2002年度の経済成長率は、モンスーンの影響もあり、3.8%に落ち込んだ。その後は、2003年度8.5%、2004年度7.5%、2005年度9.5%、2006年度9.7%、2007年度9.2%と高成長を維持した。
2008年度は、世界的な金融危機及び経済不況の影響を受けて6.7%と下落したが、内需に支えられ、2009年度は7.4%、2010年度は8.5%に回復している。
インド国は、1990年代からの順調な経済成長により、都市部においては高所得者層が出現し、中所得者人口が増加する一方で、所得格差や地域格差が拡大しつつある。農村部並びに都市部の低所得層、低カースト層にとって貧困問題は依然深刻である。
また、インフラ整備が経済成長に追いついかず、電力や水の不足並びに道路、鉄道、空港などの交通インフラの不足が大きな問題となっている。これらの問題は産業の発展にとって大きな障害となるほか、人口流入によって膨張する都市部の生活基盤の悪化にもつながっている。
次にインド国の政治に関しては、経済自由化が進展し、ITサービス産業などが急速に拡大したにもかかわらず、農村経済や社会的弱者層が経済成長から取り残されたこと等を背景として、2004年5月の下院総選挙ではインド国人民党(Bharatiya Janata Party:BJP)を中心とする与党国民民主連合が敗れ、コングレス党を中心とする統一進歩連盟(United Progressive Alliance:UPA)が連立政権として発足した。
2009年5月の下院総選挙でもコングレス党が大勝し、UPA政権は9%の経済成長を目標として、そのための投資の拡大やインフラ整備などの経済政策を表明している。また、庶民を意識した「包括的成長」、「平等な発展」を目標として掲げ、農村開発や女性・貧困層等の社会的弱者対策、雇用対策、行政の透明性向上等の政策にも力を注いでいる。
最近の政治動向としては、東アジア首脳会議では、東アジアの地域包括的経済連携(RCEP)について、政府は参加に意欲的だが、産業界は慎重な姿勢である。
2012年12月20・21日、ニューデリーで開催されたインド国・ASEAN特別首脳会議では、国際的な問題、地域的な問題への対処、開かれた地域統合の推進、アジアの平和、安定および繁栄の促進を目指して「ビジョン声明」が採択された。
※ビジョン声明では、インド国とASEANが海洋の安全保障や航行の自由、海賊対策などで協力することで合意した。

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(注1)出典:インド統計局
「インド市場と市場開拓」、独立行政法人 日本貿易振興機構、2012年3月 参照
http://www.jetro.go.jp/jfile/report/07000866/in_market_development.pdf
(注2)出典:UN, World Population Prospects: The 2010 Revision
2011年10月ダウンロード
総務省統計局Webページ、統計データ、世界の統計 参照
http://www.stat.go.jp/data/sekai/02.htm#h2-04

(参考文献)
1.外務省 政府開発援助(ODA)国別データブック 2011[1]インド, 1.インドの概要と開発課題, p127
http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/ODA/shiryo/kuni/11_databook/pdfs/02-01.pdf
2.JETRO Official Web
http://www.jetro.go.jp/world/asia/in/basic_01/

1-2 インド国の対象分野における開発課題の現状

インド国の医療保健分野では、ワクチン接種に特に注力している。
インド国は医薬品の製造開発、特に低コストのワクチン製造において世界の中心地となり、世界のワクチン供給の43%を担っている。途上国に向けた革新的で手頃な価格の高品質なワクチンの開発をリードし、成長する国内市場だけでなく国際市場にも供給する上で重要な役割を担っている。
しかしワクチン業界では以下に示すような課題が解決されていない。
・ワクチンの研究開発・製造コスト
・生産スケーリング
・ワクチンの有効性
・法規制の障壁
・遠隔地域への普及制限
・市場認可要件
・新たなバイオテクノロジーの支援にふさわしい環境
※性能や処理能力を、要求される需要に合わせて増強したり縮減したりすることをスケーリングという。

インド国内のワクチン市場は9億米ドル程度と見積もられているが、2011年から2013年の2年間で現在より23%拡大する見込みである。

今回の調査では、インド国の国土があまりにも広く、また地方によって州政府の規模の違いなど多様性を持っているため、インド国のワクチン接種に関するスタンダードモデルを得られなかった。調査地域が、デリー、ムンバイ、バンガロールという経済的にも発展した地方で行ったので、調査が非常に偏っていたと言わざるを得ない。
インド国の中央政府の高官は非常に優秀で、上手にVaccination Programをつくり、そ

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の実施を州政府、UNICEF、NGO等に任せているようであった。
しかし、政府の高官たちはプログラムを作るが、その実施に関してはどのようにうまくいっているかどうかのデータを持ち合わせていなかった。
これは、UNICEFのVaccine Wastage Analysis(2010)からも明らかで、インド国ではワクチンの不良廃棄を含む在庫管理の記録が十分になされていない。
データ分析すると、全体不良廃棄率は非常に高いことがわかった。
Vaccine Wastage Analysis(2010)は、2009年にUNICEFがインド国においてワクチンの不良廃棄率の調査を実施した報告書である。
本資料によると、不良廃棄に関するデータ収集と記録がどのレベルでもなされていないので、在庫管理のデータを使い計算により求めた(表-1、表-2参照)。ただし場所によってはワクチンの使用量とワクチンの接種を受けた人数がマッチしないところもあった。
よって、この資料からはコールドチェーン(第2章の2-4で後述する)の最末端での不良分析ができない。
表-2より、総合不良廃棄率が平均で27%から61%と異常に高いことがわかる。
不良廃棄率はワクチンの種類、州により変わる。最大の不良が起こるのはワクチン接種場所である。コールドチェーンにおける不良廃棄率は非常に小さいが、不良の報告記録がなされていないことが一つの原因である。
なお、不良廃棄の原因は以下が考えられる。
・マルチドース(1個のバイアル、コンテイナーが例えば10人分の容量を収納する)の時に、バイアルの開栓後にある決められた時間以内に使い切らなければならないが、その時間内に全容量を使いきらない時には、残余を廃棄しなければならない。これによる廃棄。
・温度逸脱による廃棄で特に高温側への逸脱による廃棄。
・1種類の冷凍保存を求めるワクチン以外のすべてのワクチンが、2-8℃の範囲内で製造後から接種まで管理されなければならない。温度が低温側に逸脱し、ワクチンが凍結したための廃棄。ちなみに凍結するとワクチンのポテンシー(有効性)が損なわれる。

なお、凍結による不良廃棄が最も起きやすいのが最末端であると推測できる。
現地調査で得られた唯一のワクチンの凍結による不良廃棄率は、バンガロールのUNICEFで得られた1.4%であった。

ここで、表-1、2のVaccineの略語に関して以下に示す。
BCG: Bacillus Calmette- Guerin (vaccine against tuberculosis)
結核に対するワクチン
DPT: Diphtheria, Pertussis, Tetanus
ジフテリア・破傷風・百日咳に対するワクチン
HepB: Hepatitis B B型肝炎に対するワクチン
OPV: Oral Polio Vaccine ポリオワクチン
TT: Tetanus Toxoid 破傷風に対するワクチン

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表-1 ワクチンの廃棄率(Wastage rates)

 

表-2 ワクチンの総合不良廃棄率(Average Wastage rates)

 

ワクチンの普及に関してインド国政府は鋭意努力しているようであったが、貧困、識字率の低さが障害となってなかなか浸透しない感があった。特にビハール州等の貧しい州ではワクチンの接種率が非常に低い。
ワクチンの接種の実施は州政府の末端の管轄であるが人手が足らず、結局、沢山のNGOが活躍しているようであった。
現在、UNICEFは末端の接種のサポート(例えばコールドチェーン・マネジメントの訓練)をしていて、直接的には接種に従事していない。
なお間接的な情報として、最近3社のワクチン製造工場の操業が品質問題で停止になった。これは法規制があるにもかかわらず、正しい品質マネジメントシステムが運用されていないためと考えられる。
治験に関しては、インド国は国内製薬会社と、欧米の製薬会社の新薬の研究開発のハブになっている。治験件数は著しく増加傾向にある。ただし、現地調査時に、治験参加者の同意が得られないまま治験がなされているというような悲しい新聞情報があった。これもインド国民の貧しさや情報不足、低学力が悪用されているのかと憂慮する。

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(参考文献)
1.Vaccine World Summit 2013
http://www.giievent.jp/imarc251927-2013/concept.shtml
2.UNICEF、Vaccine Wastage Analysis 2010

1-3 インド国の対象分野の関連計画、政策及び法制度

インド国政府は援助受け入れ国・機関を限定しており、2003年6月に対外援助受け入れ政策を発表した中では、今後の援助は国際機関を除き、我が国、ドイツ、米国、英国、EU、ロシアに限って受け入れるとし、その後、2004年5月の政権交代後には、これら対象をG8、EU及び年間2,500 万米ドル以上の支援を行うG8以外のEU加盟国へと変更した。
インド国政府は政策実施におけるオーナーシップを強く持っており、インド政府の主導のもと、ドナー間の援助協調が進められている。例えば、我が国は10 年以上にわたり、UNICEFとの連携により他の国連機関や世界銀行等とともにポリオワクチンの無償供与を実施している。なお、ドナー間の情報・意見交換は活発に行われている。
なお、2012度のUNICEFによるポリオワクチンの無償供与は予定されなかった。

次にインド国の法制度であるが、インド国現地で組織を立ち上げ、運営していくうえで気をつけるべき点として、インド国の労働法が挙げられる。
被雇用者(employee)が、「workman」(労働者)と「non-workman」(経営者・管理職)という2つのカテゴリーに分けられている。
雇用しようとする人がworkmanに当たるかnon-workmanに当たるかにより、適用される法律や保護の内容等がかなり変わってくるので、そのあたりの認識が必要である。
workmanの場合は、法令上の解雇規制があるため、解雇での訴訟が起きやすくなる。
インド国では、解雇訴訟だと請求額が数十万円なのに、10年も裁判やっているようなことがあり、時間に対する感覚が日本人と全然違う。インド国人は長い裁判でも日本人ほど苦痛に感じない。
また、中央政府が定める労働法に加えて、州ごとに異なる労働法があるが、特別に際立って変わった法律はないと考える。
州法で重要な法律としては、Shop&Establishments法が挙げられる。この法律は州法だが、労働時間や休暇など基本的な労働条件を定めている。
州ごとに異なる規制内容として代表的なものは、休日の定めや有給休暇の日数などである。ちなみに、Shops & Establishments法が適用されるのは、店舗・施設(事務所)などであり、工場で働く工場労働者には、連邦法である1948年工場法が適用される。
1日の最大の労働時間として定められている上限は、だいたいどこの州でも9時間である。各州はそれぞれの州法に基づいて1日の労働時間の上限を定めているが、それはある程度の社会全体におけるコンセンサスに基づいていて、それが上限9時間である。
最後に、インド国におけるライセンスに関する法制度と実務運用の概要であるが、契約において裁判管轄の選択が可能であり、また、準拠法の指定を制限する法規定はない。
特許ライセンスが法的に有効と認められるためには特許権のライセンス契約の登録が必須である。商標権のライセンスは第三者対抗要件であり登録は必須ではない。営業秘密ラ

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イセンスについては、登録制度はない。
インド国法においても、契約において裁判管轄を選択することが可能であり、また、準拠法の指定を制限する法規定はない。
準拠法が日本法であれば日本における裁判判決を現地で執行することも法文上可能であるが、判決の執行は、日本の判決をそのまま執行することは出来ず、改めてインド国内の裁判所に執行のための訴えを起こす必要がある。
こうした点から、準拠法の選択については、契約の執行地であるライセンシーの属する国の法律を準拠法とすることが望ましい。ただし、現地企業と日本企業との間における契約書の準拠法は、日本、シンガポール、あるいはインド国のいずれかとしている。シンガポールを準拠法とする根拠は、日本でもインド国でもないバランスを(どちらかにとって有利ではない)考慮したものである。また、インド国はニューヨーク条約加盟国であるため、仲裁地をインド国以外に設けることが可能であり、実務上良く用いられる仲裁地はシンガポールである。
特許権のライセンス登録に関しては必須である(第69条第1項)。
ライセンス登録の日をもって、ライセンシーは実施権があるものと認められ、契約書があるのみでライセンスを登録しない場合、法的にはライセンシーには特許権を使用する権利がないものと判断される。
他方、商標権のライセンスは第三者対抗要件であり、登録は必須ではないが、登録使用権者の使用は商標権者の使用とみなされる(商標法第48条)。また、商標権の登録使用権者は、専用使用権、通常使用権に関わらず、自己の名義にて、第三者の使用に対して侵害訴訟を提起できる(商標法第52 条)。
ライセンス登録においては、ライセンシーが所定の書式及び契約書をインド国特許庁に提出する。提出された書類が登録されるまでおよそ3か月程度を要する。
なお、ライセンス契約の言語を指定する法規制はないが、契約書のライセンス登録等の手続の際には、契約書原本及び英語あるいはヒンディー語の翻訳の提出が必要となるが、契約書原本が英語あるいはヒンディー語であれば、翻訳の提出は必要ない。
ライセンシーの名前、対象権について公開されるものの、積極的な公開制度はない。
また、特許権者または実施権者の秘密請求に基づいて、長官は、裁判所の命令に基づく場合以外には何人に対してもライセンス条件等を開示しない保障措置を取ることとされている。
インド国においては特許ライセンスが法的に有効と認められるためには特許庁へのライセンス登録が必要とされていることに留意する必要がある。また、商標権のライセンス登録は第三者対抗要件であること、営業秘密ライセンスの登録制度がないことも合わせ注意が必要である。

(参考文献)
1.外務省 政府開発援助(ODA)国別データブック 2011 [1]インド, 3.インドにおける援助協調の現状と我が国の関与, p131-p134
http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/ODA/shiryo/kuni/11_databook/pdfs/02-01.pdf
2.東洋経済ONLINE

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http://toyokeizai.net/articles/-/6011
3.特許庁平成23年度産業財産権制度問題調査研究
「我が国企業の新興国への事業展開に伴う知的財産権のライセンス及び秘密管理等に関する調査研究」
http://www.jpo.go.jp/shiryou/toushin/chousa/pdf/zaisanken/2011_17.pdf

1-4 インド国の対象分野のODA事業の事例分析および他ドナーの分析

1958年に我が国最初の円借款をインド国に供与して以来、円借款は我が国のインド国に対する経済協力の中心となっている。1998年にインド国で行われた核実験により、新規円借款を凍結したこともあったが、2003年から対インド国経済協力が本格的に再開された。
インド国から見て日本は最大の二国間ドナーであり、また日本から見てインド国は2003年以来円借款の最大級の受取国となっている。
近年、インド国は順調な経済成長を続けており、外国投資の規制緩和、国内経済の自由化を積極的に進めている。購買力を有する3 億人とも言われる中間層の存在は、今後の有望な投資先・市場としての潜在性を有しており、この点においても、二国間関係緊密化の必要性は高い。また、インド国は、前述のとおり人口の約3 割を貧困層が占めており、貧困削減はミレニアム開発目標(Millennium Development Goals: MDGs)を達成する上でも重要である。
そこで、インド国に対する援助の戦略性をより一層高め、政府全体として一体性と一貫性を持って効果的・効率的な援助を実施するため、現地ODAタスクフォースにおける議論やインド国側との政策対話を踏まえ、2006年5月、我が国は「対インド国別援助計画」を策定した。同援助計画においては、①電力・運輸インフラ等の支援を通じた経済成長の促進、②保健・衛生問題、地方開発、上下水道支援、植林支援等を通じた貧困・環境問題の改善、③人材育成・人的交流の拡充のための支援、の3点を重点目標としている。
インド国のODA事業の特徴としては、我が国のインド国に対する円借款を通じた支援は、投資環境の整備、貧困削減への貢献、環境問題への対処に重点を置いて実施している。無償資金協力によるインド国への支援は、規模は大きくないものの、2010年度は保健や教育等の基礎生活分野で貧困削減に資する協力を行っており、具体的には「インディラ・ガンディー国立放送大学教材制作センター整備計画」や「ポリオ撲滅計画(国連児童基金(United Nations Children’s Fund: UNICEF、以下UNICEF)連携)」のほか、草の根・人間の安全保障無償資金協力を実施した。
インド国に対する技術協力は、円借款と比較すると事業の割合は小さいが、2007年に開始されインド国で初めて政府・産業界・学術界による協同実施体制を構築した「製造業経営幹部育成支援プロジェクト」等、インド国政府から高い評価を受けており、インド国政府側から技術協力の増加が期待されている。
近年、円借款との連携を想定した開発調査や、円借款事業との連携による専門家派遣等の技術協力への要請が高まりつつあり、より効果的な連携が開始されている。インド国側のボランティア受入政策の変更により1979年から中断され2006 年に再開された青年海外協力隊については、2010年度7名の隊員が派遣された。

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また、現地大使館及びJICAからの情報では、近年のインド向けODAを取り巻く環境について次の通りであることが分かった。
・インド国は他国からの援助に対するオーナーシップが高いことに加え、経済成長に伴い、被援助国から援助国に移行しつつある。よって、日本のODAに期待される内容も無償による資金協力より、技術協力ないし円借款となってきている。
・このような状況下、インド国政府はドナー主導による案件形成にセンシティブなことが多いことから、案件形成においては、インド国の開発課題を十分分析したうえで、効果やメリットを、説得力を持って提示する必要性がある。
・ワクチンの政策はWHOがハンドリングしている部分もあり、ワクチン接種はUNICEFが関与している部分がある。UNICEFは、モービライザー(活動を行う主体者)として住民意識を高め、ワクチン接種率を高める働きをしている。
・日本政府としては、今後も草の根無償のような形でのドネイション活動をNGOに対して継続して行っていく。

他に得られた情報として、現在、インド国はビルゲイツ財団、PATH財団、GAVIS財団からの寄付で財政的にも潤沢であるというものがあった。

最後に、実施済及び実施中の技術協力プロジェクト案件(終了年度が2006年度以降のもの)としては、以下の事例がある。
・下痢症対策(フェーズ2) 2003.07~2008.06
・女性のリプロダクティブ・ヘルスの向上及びエンパワーメントプロジェクト
2005.09~2006.08
・マディヤ・プラデシュ州リプロダクティブ・ヘルスプロジェクトフェーズ2
2007.01~2011.01
草の根・人間の安全保障無償資金協力案件に関しても、次の事例があげられる。
・高齢者のための健康・デイケアーセンター建設計画
・アラハバード県における小学校拡充計画
・障害者のための職業訓練プレハブ施設整備計画
・ストリートチルドレンのためのリハビリテーション施設建設計画
・都市部スラムを対象としたアシャ医療巡回サービス提供計画
・コーチビハール県における医療センター建設計画
・バラソール県における恵まれない子供のための小学校建設計画
・バガルプル県におけるHIVケアセンター建設計画
・カタック県における障害者セラピーセンター建設計画
・グムラ県における指定・少数部族の子供のための寄宿舎建設計画
・クンティ県における恵まれない子供のための小学校建設計画
・タミルナドゥ州マドゥライ県エイズ患者介護施設兼職業訓練施設建設計画
・タミルナドゥ州プドゥコッタイ県貧困農民及び退学女児のための支援センター
建設計画
・HIV/エイズの治療及び感染予防教育のための地域医療センター建設計画

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・貧困家庭出身者及び孤児のための保護施設建設計画
(参考文献)
1.外務省 政府開発援助(ODA)国別データブック 2011 [1]インド国, 2.インド国に対する我が国ODA概況, p129-p130
http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/ODA/shiryo/kuni/11_databook/pdfs/02-01.pdf
2.外務省 政府開発援助(ODA)国別データブック 2011 [1]インド, 3.インドにおける援助協調の現状と我が国の関与, p131-p134
http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/ODA/shiryo/kuni/11_databook/pdfs/02-01.pdf

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第2章 提案企業の製品・技術の活用可能性及び将来的な事業展開の見通し
2-1 提案企業及び活用が見込まれる提案製品・技術の強み

株式会社スギヤマゲン(以下、スギヤマゲン)の真空断熱材搭載・高性能定温輸送容器「バイオボックス・プラス」を調査対象とする(写真図参照)。

「バイオボックス・プラス」は次のような特長を有し、これまで日本国内の医療機関等における使用実績を有する。
①最上級スペックの高性能真空断熱パネル(VIP)を搭載した、極めて断熱性能の高い輸送容器である。2種類のPCM(蓄冷剤、蓄熱材)を使用することにより、収納物の凍結が避けられ、温度保持が容易である。アルミニウム製の内箱を採用したことにより収納物の温度の均一性が得られる。
②夏期/冬期を問わず、温度変化の激しい環境下、「2℃~8℃」「15℃~25℃」等の温度帯を長時間(最大10日程度)高精度に維持できる。
③医薬品、治験薬、治験検体、臨床検体、や培養組織・細胞等の医療分野の使用の他、半導体、電子部品等の厳しい温度管理が要求される工業製品等の輸送にも適している。
また、同業他社の製品と比較した場合の当該製品・技術の特徴・強みを以下に述べる。
①VIP被覆率ほぼ100%を達成、非常に高い断熱性能を誇る。
また収納物の凍結が防げる。
外気温によっても内部温度が変化しないことや、ワクチン
輸送時に保冷、蓄熱材の適正な配置によりワクチン接触面
もフリーズしない(フリーズフリー)ことが強みである。
②圧倒的に断熱性能に勝るため、他社製品と比べて非常に
長い時間温度保持が可能。また、保冷剤等の使用枚数も
減らすことができ、予冷などの前準備に費やす時間、手間
を大幅に削減できる。
③日本国内では、厳密な温度管理が必要な薬品などの輸送容器として、製薬会社(第一三共等)、大手物流企業(三菱倉庫、三井倉庫、近鉄エクスプレス、TNT等)、医薬品開発業務受託機関(三菱化学メディエンス、BML、SRLメディサーチ)やJAXAなどが指名買いし、性能への高い信頼を勝ち得ている。

「バイオボックス・プラス」の耐用年数は概ね5年であり、部品や部材の交換は破損がなければ不要である。維持管理は簡単で、清潔に保つこと、破損が無いことを視認することである。

「バイオボックス・プラス」は現在、日本にて特許を出願中の他、特許協力条約(PCT:Patent Cooperation Treaty)に基づく特許を出願中である。

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日本国内の特許出願に関しては、以下の通りである。
①発明の名称=「温度管理システム」
出願日=平成23年6月28日
出願番号=特願2011-143449
②発明の名称=「断熱容器」
出願日=平成23年6月28日
出願番号=特願2011-143540

国際特許出願(日本を除く全指定)に関しても、以下の通りである。
①発明の名称=「温度管理システム」
国際出願日=2012年6月28日
国際出願番号=PCT/JP2012/066527
②発明の名称=「断熱容器」
国際出願日=2012年6月28日
国際出願番号=PCT/JP2012/066528

※PCMを複数種類組み合わせ、アルミ内箱を使って温度管理する方法と、断熱容器の構造の2通りで特許出願した。

近年、シンガポールでの展示会、営業活動により、アジア国際市場における「バイオボックス・プラス」の優位性、ユニーク性を確認しており、さらなるアジア地域への展開を図っていく予定である。
インド国の現地コンサルタントからこれまでに得た情報によれば、ワクチン輸送にはボックスタイプの持ち運び可能な容器が広く用いられており、ワクチン輸送容器は十分な需要がある。インド国は医薬品開発も盛んであることから、治験薬、治験検体の輸送容器の需要も多いと考えらえる。
しかし、VIPと複数のPCMを使用して、長時間保冷を可能にする高性能の輸送容器がインド国内では使われていないことから、「バイオボックス・プラス」はその優れた性能に対するニーズが高いことが見込まれる(図-2参照)。
現在、インド国で使われているコールドボックス(「バイオボックス・プラス」の入るカテゴリーの断熱輸送容器)とワクチンキャリア(コールドボックスより小さい断熱輸送容器で人手による輸送用ボックス)にはワクチンの温度を2-8℃の間に管理するためにアイスパックを使用している。
その時、アイスパックのプレコンディショニングとして、いったん-15℃に凍結した後、半融解状態にしてそれぞれの容器に入れ、その中心にワクチンを収納するように指導されている。ところが、この指導が十分でなかったり、指導内容が細かに守られていないと、常時アイスボックスに接するワクチンが凍結の危険にさらされる。
ワクチンハンドラーのガイドブックには、冷凍庫からアイスパックを取り出した後、適切な状態となるまで溶かしてから使用することが記載されているが、これは個人の判断を必要とするもので、取り扱いにばらつきが出ることから、均一な温度管理が出来ていない

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可能性を含み、ワクチンが凍結してしまうリスクが常に存在する。
一方、「バイオボックス・プラス」には2種類のPCM(相変化物質)AとBが採用され、ボックスのすぐ内側には外気(雰囲気)からの入熱のバッファーとなるPCM-A(-15℃にプレコンディショニングされ、融点0℃)が、更にその内側には他のPCM-B(6℃にプレコンディショニングされ、凝固点3.5℃)が低温のPCM-Aからの熱吸収を抑えるために投入される。
これによりPCM-BがバッファーとなりPCM-Aの低温の影響を防止し、ワクチンが凍結(フリーズ)することを防止できる。


図-2 「バイオボックス・プラス」の内気と外気温の比較

2-2 提案企業の事業展開における海外進出の位置づけ

スギヤマゲンが拡販・普及に力を入れている薬品・検体・バイオ関連の定温輸送容器「バイオボックス・プラス」は、主に薬品、検体などの特殊なモノの輸送に使われるものであり、日本国内の市場だけでなく、海外で販路開拓を行うことで、事業拡大が見込まれる。
今後、厳しい温度管理が必要な薬品(抗体医薬等)の増加、ワクチン予防接種の普及、国際共同治験の活発化等により、国際的に需要が大きく拡がることが予測される。
しかし、昨今では海外製の同種製品も増え、日本国内の市場でもそれらの製品と競合する機会が増える見込みである。
価格、機能・性能において、競合製品と対抗していくためには、海外の市場を見据え、市場・競合の動向を把握し、製品の改良を行うことで、多くの顧客を獲得し、販売数を増やしていく戦略をとらなければならない。
スギヤマゲンは中期経営計画の中で、社会貢献度の高い事業として、グローバル・スタンダードと成り得る定温輸送容器やシステムの構築を重要テーマに掲げており、同システ

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ムの海外展開による売上増大を計画している。
今回、インド国での販売・技術展開に取り組むことにより、インド国市場のニーズ、実情に合った仕様や製造コスト、ビジネスモデル、自然に優しい定温輸送容器、保冷材のリユース、リサイクルの仕組み等を構築し、インド国市場でのデファクト・スタンダードとなることを目指すことが当社の戦略である。
そして、インド国での拠点固めの後、その他のアジアの国々やアフリカ等のワクチン・コールドチェーンの市場獲得に繋げることで、世界各国での販売拡大が見込まれる。

2-3 提案企業の海外進出による地域経済への貢献

(1)インド国が抱える開発課題に対して共同企業体が提供しうるソリューション、及び途上国への貢献姿勢・意欲
インド国は、水事情、衛生状態、停電が頻発する電力事情をはじめ、諸々のインフラ整備事情が悪く、様々な感染症が発生している。
国民の貧富の差も大きく、貧困層は充分な医療・保健福祉の恩恵を受けられない。
また、国土が広く、州毎の法規制・言語・習慣が異なり、国内物流に非効率な面が多い。
現在、薬品の国際共同治験のハブとして、検体の輸送が活発になりつつあるが、安全面、温度管理面で不安がある。
そこで、感染症を防ぐためのワクチン製剤の長時間温度管理輸送を、高精度且つ経済的に行うことができる定温輸送容器の提供により、僻地・過疎地を含む全地域に品質の安定したワクチンを確実に送り届けられるようにし、有効な予防接種が行われるようにしたい。
また、治験薬・治験検体の輸送が管理温度を遵守して行われるようにすることにより、国際共同治験においてアジア地区の治験のハブとして重要性を高めつつあるインド国の治験・臨床検査業界の信頼性向上、地位向上に貢献したい。

(2)当該事業の実現によって得られる開発効果
「バイオボックス・プラス」の普及により、温度管理不適合を理由にワクチンや薬剤が使えなくなることを防ぎ、確実な予防接種の実施推進とワクチン廃棄によるムダの削減を図る。
冷蔵庫の不足や停電の頻発があっても、品質を維持してワクチンの輸送・保管が行える体制を実現する。同時に保冷剤使用量の削減等、容器のリユース徹底により、環境に優しい定温輸送システムの構築を進める。
インド国での容器普及により、出荷数量が増え、生産量が増えることにより、生産コストを大幅に低減し、より広い地域で使用して貰える価格設定の実現を見込む。
アイスパックの煩雑な前準備が不要で、いつでも、誰でもワクチンの凍結、温度逸脱を起こさずにワクチンを運べる定温輸送システムの構築により、ワクチンの輸送・保管環境の革命を起こす。
その他、現地代理店での雇用、輸送運搬にかかる雇用を創出する。
将来的には、現地で保冷容器を組み立てることも考えられ、現地生産による雇用も創出する。

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2-6 リスクへの対応

(1)想定していたリスクへの対応結果
①法務、知的財産権保護その他のリスク
州により異なる法規制・税制や商習慣、意思決定プロセスの複雑さがあり、スムーズな商談の妨げになる恐れがある。現地コンサルタントを活用して対処していく。
また、類似商品、商標の横行を防ぐための知的財産保護対策を万全に講じる必要がある。粗悪な類似商品の横行により、商品価値が損なわれる可能性がある。
その他、販売代金の回収リスクなどがある。
②環境面、社会配慮(ジェンダー、カースト、宗教マイノリティ等社会的弱者)の観点で地域社会に悪影響を与えないよう、十分に事業計画を検討していく。また社会慣習等、ビジネスの制約となりうる点についても検討する。
③乳幼児の感染症による死亡を無くしていくことに資するワクチン輸送用の容器であり、社会面での問題は少ないと考える。
環境面では、使い捨てではない、リユース・タイプの保冷輸送容器による定温輸送システムを構築、使用後の容器や保冷剤などの回収・処分まで当社が責任を持って行える体制を築き、廃棄物の出ない環境に配慮したシステムを作り上げる。

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(2)新たに顕在化したリスク及びその対応方法等
販売価格に関して、WHOのパンフレット、競争業者のカタログ、現地におけるヒアリング等から、競合業者のコールドボックス価格は、C.C. Shah & Sons(輸送会社)で¥3,451、Dr.L.H. Hiranadami(プライベート・ホスピタル)で得られた情報では2500ルピー(大体¥3900)、APEX INTERNATIONALで¥8400であった。見積もり条件が多少違ったとしても(たとえば、競合品の価格がボックス単体で蓄冷剤が入っていない等)、「バイオボックス・プラス」の価格は上記の数倍になる。
これに関しては、以下の対応を検討中である。
①「バイオボックス・プラス」の縮小版を作り、ワクチンキャリアとして使う可能性を模索する。
②「バイオボックス・プラス」の性能をなるべく保持したまま、廉価版を作り、価格差を少なくして可能性を検討する。その時には目標価格、仕様をどのように求めるべきかが重要である。
③インド国内での治験において1way(使い捨て)の温度コントロールパッケージから、繰り返し使用(リユース・タイプ)の「バイオボックス・プラス」に切り替えて、1回の輸送あたりのパッケージコストをさげて、より優れた温度管理をすることを提案できないか模索中である。
④現在インド国市場にはコールドボックスの高性能品がないので、その利便性を理解してもらえないため、高価格も受け入れられない。まずODAの援助のもとにサンプルを5カ所に供与し、その利便性を理解してもらい、それから浸透を図る用意をしている。
⑤知名度が現時点で低いことはやむを得ない。よって、知名度を高めるために、展示会、業界紙等で宣伝をするかどうかを検討中である。
⑥政府調達の仕様・基準、WHOの容器規格の決定の過程・責任者が不明であるので、今後も情報収集にあたる。また、インド国政府の自国メーカー優先・保護の姿勢がどのように現れてくるかについても継続して情報を収集・分析する。
⑦インド国側の国、州、NGO等が高スペック容器にどの程度予算を割けるか、ワクチン凍結防止による経済効果をどの程度認めてもらえるか、インド国側の購買力を見極めることは極めて重要なため引き続き情報収集を行う。
⑧売掛金の回収リスクについては、現地代理店候補と支払条件、基本契約を決める際にヘッジを行う。

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第3章 ODA案件化による対象国における開発効果及び提案企業の事業展開効果
3-1 提案製品・技術と当該開発課題の整合性

今回、デリー、ムンバイ、プネ、バンガロールと3回のフィージビリティ・スタディを通して、インド国政府機関、UNICEF、CRO、輸送会社、病院等でヒアリングを行った結果、コールドチェーン・マネジメントで温度管理に関する問題はないとの回答を得た。
しかし、UNICEFでは凍結によるワクチン効力の低下について懸念が提示された。
第1章の1-2で述べたように、UNICEFはワクチンの廃棄に関しても問題視しており、ワクチンの凍結と温度逸脱が起こっていることを重要視している。
ワクチンの全廃棄率は5%だが、そのうち凍結による廃棄率は28%、つまり全体の1.4%を占める。
ワクチンの中には1dose(1人当たりの1回あたりの接種量)が20ドルする高価なものがあり、インド国でのワクチン接種は年間約1000万回行われていることを考慮すれば、凍結によるワクチン廃棄コストと、効かないワクチンを接種される乳幼児のリスクは注目に値し、大きな改善の必要性がある。
「バイオボックス・プラス」はワクチンを凍らせることがない(フリーズフリー)ので、ワクチン廃棄防止と乳幼児のワクチン接種時のリスク低下に大きな効果があると考える。
インド国の政府機関や公的レポートでも凍結リスク(フリージングリスク)について述べられている。ワクチンは凍結した場合、それは効力を持たないものとして廃棄され、人に接種されるべきものではなくなる。
実際にワクチン接種を実施している地元NGOでは、ワクチン接種前にワクチンが凍結していたかを確認する作業手順がUNICEFのワクチンハンドラーが守るべきマニュアルに掲載されているものの、実態として凍結していたかどうかの確認はされていないケースも散見されるという情報を得た。
更に、5種混合ワクチンの導入などによりワクチンの温度管理はより厳しくなるという情報も得ている。

ワクチンキャリアやコールドボックスに関する需要は多く、Govt. of Maharashtra controlling the entire cold chain in the state of Maharashtraでは、輸送にはUNICEFの3ℓ用ワクチンキャリアが使われているが、今年度は、15,000個のワクチンキャリアの要求に対して、2,000個だけしか与えられなかったという回答を得た。
これはvaccine immunization programを妨げることになる。
また、The office of Medical Officer of Health, Pune Municipal Corporationでは、性能が劣った小さい容量のワクチンキャリアの代わりに、約18ℓの収容力がある「バイオボックス・プラス」を集団予防接種プログラムに使用することは可能であるという示唆を受けた。
UNICEFからは、「バイオボックス・プラス」がWHOのコールドボックスの範疇に入り、PQS

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(Pharmaceutical Quality and Safety:医薬品品質および安全)に基づきWHOの規格に合格するのを確認するように勧められた。すなわち、WHOの規格を満たせば「バイオボックス・プラス」を
Ministry of Health and Family Welfareに推薦するとの回答を得た。
政府調達の競争見積もりに参加するには、HLL Lifecare Limitedの定める参加者としての資格を持つ必要がある。参加資格は国内国外すべての業者に平等に開かれている。
また「バイオボックス・プラス」のカテゴリーについては、Ministry of Health and Family Welfareが基本仕様を決め、それに合致しなければならない。基本仕様はWHOの定めるコールドボックスの規格がベースである。ただしHLL Lifecare Limitedの話によると必ずしも完全に使用に適合していなくても話し合いの余地はあるということであった。
現時点ではこのような競争見積もりに参加する意思はない。将来機が熟した時に、現在の仕様を凌駕するコールドボックスのカテゴリーを設置してもらい、入札参加を考えている。
「バイオボックス・プラス」は、WHOの規格に既にほとんどの点で準拠しているばかりでなく、WHOの基準を超えて断熱性が良く、更にPCMを2種類用いることで、内容物の凍結を避けることが可能である。すなわち、「バイオボックス・プラス」はWHOの規定する輸送容器を超える設計コンセプトのもとに製造されており、コールドボックスのスペック変更の際、凍結防止の性能が盛り込まれれば、「バイオボックス・プラス」の性能を十分に発揮し、ワクチン廃棄の低減と凍結したワクチン接種の回避が可能となる。
価格については、競合製品の価格帯も変化することが予想されるため、継続的な調査が必要である。
HLL Lifecare Limitedでは、コールドボックスおよびワクチンキャリアの利用は年間で約20万個になり、需要は年々増加するとの回答を得た。また、高温におけるインド国のローカル製品と「バイオボックス・プラス」の比較試験結果に関しては、ローカルのものは8時間ぐらいで温度逸脱するのに対して、「バイオボックス・プラス」は96時間ぐらいホールド時間が稼げた(図-4、図-5、表-4参照)。
この結果にHLL Lifecare Limited側が大変驚いていた。「バイオボックス・プラス」の外気温47℃温度特性データは評価された。0℃以下の過冷却は「バイオボックス・プラス」では発生しないことも評価された。

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図-4 「バイオボックス・プラス」の外気温47℃温度特性データ



<図-4の補則:「バイオボックス・プラス」の外気温47℃温度特性データの試験条件>
試験実施日:2012年12月21日~12月25日
試験実施場所:株式会社スギヤマゲン
試験実施者:株式会社スギヤマゲン
Cold Box:バイオボックス・プラス
蓄冷剤 :0 ℃融点 500 g×8 枚・・・①
投入条件:凍結庫→直ぐバイオボックス・プラス内投入
蓄熱材(サーモパックプラス4) :4 ℃融点 1500 g × 1 枚・・・②
投入条件: 冷蔵庫(over 5 ℃)→ 直ぐバイオボックス・プラス内投入
蓄熱材(サーモパックプラス4) :4 ℃融点 1500 g × 1 枚・・・③
投入条件: 冷蔵庫(over 5 ℃)→ 直ぐバイオボックス・プラス内投入
蓄冷剤 :0 ℃ 融点℃ 500 g×12 枚 ・・・④
投入条件:凍結庫→ 直ぐバイオボックス・プラス内投入

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図-5 「APEX INTERNATIONAL AICB-444-L」の外気温47℃温度特性データ

<図-5の補則:「APEX INTERNATIONAL AICB-444-L」の外気温47℃温度特性データの試験条件>
試験実施日:2012年12月21日~12月25日
試験実施場所:株式会社スギヤマゲン
試験実施者:株式会社スギヤマゲン
Cold Box :APEX INTERNATIONAL AICB-444-L
蓄冷剤 :クールパック×44 枚(メーカー指定位置)
投入条件 :冷蔵庫 (3~5℃)保管→直ぐCold Box内投入

 

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表-4 バイオボックス・プラスと現地競合品の温度試験について

現地競合品:APEX INTERNATIONAL製 AICB-444-L
(目的)
ワクチン容器はWHO規格にて仕様が定められている。現在、インド国内ではWHO規格に適合したワクチン容器が使用されている。そこでバイオボックス・プラスの性能をインド国内で認知していただく為に、バイオボックス・プラスと現地競合品の性能を比較する。
なお、バイオボックス・プラスはワクチンの凍結防止にも有効である点を重点に置き箱内温度2-8℃維持時間を比較する。
(試験条件)
・周囲温度 約48℃
・試験時間 96時間
※バイオボックス・プラスは従来通りの使用方法。
APEX INTERNATIONAL製 444-Lは凍結により失活・効果が低減するワクチンを運搬する際は「クールパックを使用すること」となっている。
・投入条件 :<バイオボックス・プラス>
蓄冷剤(0℃融点) 500g ・・・20枚
蓄熱材(サーモパックプラス4) 1500g ・・・2枚
※セッティング位置はグラフに記載
<APEX INTERNATIONAL製 AICB-444-L >
クールパック(冷蔵庫内にて3~5℃保管)・・・44枚
※メーカーの指定位置にセット
・試験結果 :箱内温度2-8℃維持時間
<バイオボックス・プラス>:約86時間
<APEX INTERNATIONAL製 AICB-444-L >:約8時間
バイオボックス・プラスは周囲温度48℃の時、箱内温度2-8℃を約86時間維持できた。
一方、現地競合品は約8時間維持という結果になった。
(まとめ)
WHO規格のワクチン容器では、運搬時のワクチンの凍結防止にはクールパックを使用する。クールパックを使用することにより、ワクチンの凍結は防止可能だが、保冷性能が劣り、本試験のように箱内温度2-8℃維持時間は8時間程度となってしまう。
一方、バイオボックス・プラスは蓄冷剤と蓄熱材を併用することにより、ワクチンが凍結することない。なおかつ、箱内温度2-8℃維持時間は約86時間という結果になった。

最後に、「バイオボックス・プラス」を用いた技術指導の利点としては、プレコンディショニングは手順書を少し変えるだけで、変更は可能である。さらに、オペレーションがシンプルでトレーニングが簡単である。すなわちPCM-Aは冷凍庫にひと晩保存しそのまま解凍なしに使い、PCM-Bは冷蔵庫に保管されているワクチンの上に1晩保存してそのまま使う。
今後、スギヤマゲンは、CODE PQSのWHOに準拠した試験を行うことを検討し、落下試験も含めたWHOの規格を満足していることを検証する。

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3-2 ODA案件の実施による当該企業の事業展開に係る効果

スギヤマゲンが拡販・普及に力を入れている薬品・検体・バイオ関連の定温輸送容器については、厳しい温度管理が必要な薬品(抗体医薬等)の増加、ワクチン予防接種の普及、国際共同治験の活発化等により、国際的に需要が大きく拡がることが見込める。
ODA案件化としてインド国での販売・技術展開に取り組むことにより、インド国市場のニーズ、実情に合った仕様や製造コスト、ビジネスモデルを構築、インド国市場でのデファクト・スタンダードとなることを目指す。そして、その他のアジアの国々、より広い世界でスタンダードとなるようなシステムへの改良の足掛かりとし、世界各国での販売拡大が見込める。

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第4章 ODA案件化の具体的提案
4-1 ODA案件概要

インド国のワクチン・コールドチェーンの問題点は、ワクチンの温度管理における品質保証についての不透明さである。
管理温度の逸脱は高温方向と低温方向の2方向があり、特に低温方向では、凍結によるワクチン効力の低下が大きく懸念される。
温度管理が不適合であるワクチンを接種した場合には、以下のような不具合が生じると考えられる。
・接種した親子は、正しいワクチン接種ができたと認識しているため、疾病発症確率の高い環境への配慮を低下させ、疾病発症リスクが高まる。
・ワクチンを接種したにも関わらず疾病が発症した場合、当該親子のみならず周辺の親子や地域で、ワクチン接種への懐疑が発生する。
・ワクチン接種を行っているNGO等に不信感をもつ。

また、温度管理の不十分さから、廃棄されるワクチンがあるのも前章までに述べた通りである。
そこで、今回のODA案件においては、インド国におけるワクチンの高温暴露および凍結を回避することで、以下に示す目標を達成することとする。
①ワクチンの廃棄量を低減してワクチンの有効利用を促進する。
②ワクチン接種を受ける全員が有効なワクチンを接種できるようになる。

ODAスキームとしては、官民連携草の根・人間の安全保障無償資金協力(以下、「草の根無償」という)を活用する。
草の根無償は、開発途上国の地方公共団体、教育・医療機関、並びに途上国において活動している国際及びローカルNGO(非政府団体)等が現地において実施する比較的小規模なプロジェクト(原則1,000万円以下の案件)に対し、当該国の諸事情に精通している我が国の在外公館が中心となって資金協力を行うものである。

今回は、カウンターパートとしてカルナトラスト(Karuna Trust)というローカルNGOを採用する(採用の理由は後述する)。
本NGOからは、ワクチンのコールドチェーンに関して以下のような具体的問題点が指摘された。
・どの程度のワクチンが凍結により失効しているかに関する報告書はなく正確な情報を把握しているわけではない。
・しかしながら、経験上ワクチンの凍結は起こっていると見受けられる。ただし、気づかれないか、無視されているのが現状である。
・実態としては、凍結して失効したワクチンがそのまま接種され、報告もされない。
・管理温度の高温方向の逸脱によるワクチンの失効という問題は確実に存在する。
・ワクチンのコールドチェーン末端の現場作業者(ワクチンハンドラー)が、マニュアル

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を守らず、温度管理、凍結防止に失敗している可能性も考えられる。

4-2 具体的な協力内容及び開発効果

(1)案件の目標・成果
今回提案するODA案件における目標を以下に示す。
インド国におけるワクチンの高温暴露および凍結を回避することで、
①ワクチンの廃棄量を低減してワクチンの有効利用を促進する。
特に、ワクチンの凍結による廃棄をゼロにする。
②ワクチン接種を受ける全員が有効なワクチンを接種できるようになる。
特に、凍結したワクチンの接種が行われないようにする。

上記目標を達成するため、接種するワクチンの温度管理状況を明確化するとともに、ワクチンのコールドチェーンに関する機材の見直しとして「バイオボックス・プラス」をワクチン輸送に試験的に導入し、ワクチンの温度管理における品質の向上を図る。
これにより現在、インド国にない新たな仕様のコールドボックスの運用が始まり、ワクチンの凍結を回避することで、廃棄されているワクチンの中で凍結によるものをゼロにすることができると考える。
その結果、ワクチン輸送に対する「バイオボックス・プラス」の優位性がインド国において認められれば、周辺のコールドボックスないしワクチンキャリア利用者に波及すると考えられ、ひいては政府調達への足掛かりにもなると考える。すなわち、現在のWHOの仕様に、ワクチンの凍結防止のような新たな条件が付加された調達仕様が発表されれば、「バイオボックス・プラス」が政府調達の対象となる。
この背景としては、第2章の2-1、2-4および第3章の3-1に前述したように、現在、インド国で使われているコールドボックスとワクチンキャリアの使用に関して、ワクチンの温度を2-8℃の間に管理するためにアイスパックを使用しているが、その時にアイスパックのプレコンディショニングとして、いったん-15℃に凍結した後に半融解状態にしてそれぞれの容器に入れ、その中心にワクチンを収納するように指導されている。
ところがこの指導が細かに守られていないと、常時、アイスパックに接するワクチンが凍結の危険にさらされるというリスクがある。
一方、「バイオボックス・プラス」には2種類のPCM(相変化物質)AとBが採用され、ボックスのすぐ内側には外気(雰囲気)からの入熱のバッファーとなるPCM-A(-15℃にプレコンディショニングされ、融点0℃)が、更にその内側には他のPCM-B(6℃にプレコンディショニングされ、凝固点3.5℃)が低温のPCM-Aからの熱吸収を抑えるために投入される。これによりPCMBがバッファーとなりPCM-Aの低温の影響を防止し、ワクチンの凍結防止が可能となる。
開発効果は、ワクチン接種の主な対象である新生児から幼児に顕著に表れると考える。
インド国でのワクチン接種回数、年間約1000万回のうち凍結によるワクチン廃棄率は全体の1.4%であるとの情報が正しいとすると、凍結したワクチンが接種される可能性は14万接種に及ぶ。
これに相当する被接種人数に対し、「バイオボックス・プラス」を導入することで、ワク

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チンとして失活、効果が低減していないものが接種され、インド国民のうち特に若年層の健康保健状況の改善が期待される。

次に、NGOカルナトラストに「バイオボックス・プラス」を導入するために、以下の手順を用いる。
①現状のワクチンハンドラーがどのような教育をされ、それがどのぐらい実際に実施されているか実地調査をする。
②ベースラインのデータを収集するために現状の不良廃棄のデータを分析する。これには凍結による不良をはじめとして、コールドチェーン・マネジメントで起こったすべてのタイプの不良を網羅する。
③その後、改善点があれば教育をし、且つ「バイオボックス・プラス」の正しい使用方法を教育して実際の「バイオボックス・プラス」の使用を開始する。
④データを収集してベースラインと比較して改善効果を確認する。
⑤ワクチン接種に関する手順と考え方を更新する必要があることから、ワクチンハンドラーと呼ばれる人員を含め、トレーニングを行う。
⑥理解しやすい実戦的なマニュアルを準備すると共に、共同体員から現場作業者への教育・研修を行い、確実な温度管理が行われるようにする。

これらの活動を通じて、ワクチンの確実な接種実施の推進とワクチン廃棄によるムダの削減を図る。
本手順は、ワクチンのバルク輸送がカバーするコールドチェーンの上流側を除き、プライマリーヘルスセンター(詳細は後述する。)等からの下流において、コールドボックスないしワクチンキャリアが使用される最終接種場所までを適用範囲とする。

スギヤマゲンとしては、今後、草の根無償での機材供与以前に、サンプルの無償提供を始めとして、人材育成費用や諸経費は企業が負担することを考えているが、その後のボランティア活動を継続していくために、将来的には民間連携ボランティア制度を使って、長期に渡り人員を派遣することも検討する。

(2)投入
現地NGOカルナトラストでは、合計76のプライマリーヘルスセンターやサブヘルスセンター(注1)をインド国内で運営・管理している。
(注1)これらの施設は、実際にワクチン接種を行う場所であるとともに、緊急出産や歯科の一次治療などに対応することが可能な施設である。プライマリーヘルスセンター、サブヘルスセンター、モバイルヘルスユニット(移動診療所)を総称してヘルスユニットと呼んでいる。これらは日本でいう保健所・診療所のようなもので、これらにおいてワクチンの接種がされる。また、プライマリーヘルスセンターとサブヘルスセンターを総称してヘルスセンターとも呼んでいる。前者が後者を管轄する。

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コールドボックスは一つのプライマリーヘルスセンターで4~5個必要であり、サブヘルスセンターでは1個必要であるとの情報をもとに、現地NGOと協議し、主な供与機材である「バイオボックス・プラス」の導入数を検討するほか、ワクチン・コールドチェーンの品質向上に資するために、15カ所のヘルスセンターを対象として、以下の機材の投入を想定している。
・「バイオボックス・プラス」一式(PCM含む)
・温度データ取集用データロガー
・冷蔵庫
・スキャナ付プリンター(データ集計用)
・ラップトップPC(データ集計用)
「バイオボックス・プラス」の容量は18.6 ℓであり、また繰り返し使用が可能であることから、15センターで運送されるすべてのワクチンを「バイオボックス・プラス」を用いて輸送することが可能である。

(3)対象となる対象国関連機関(カウンターパート機関)
NGOカルナトラスト(NGO Karuna Trust)

NGOカルナトラストを採用する理由は、以下の通りである。
①草の根無償の対象団体に必要となるインド国FCRA(中央政府管掌)に登録されている団体である。
②インド国で医療、教育、アドボカシー領域における活動を25年に渡り行ってきた履歴を持つ団体である。
③特に医療に注力しており、インド国南西部を中心に活動している。
④インド国の8州において68ヘルスセンターおよび8台のモバイルヘルスユニットがあり、全体で76のヘルスユニットを管轄・運営している(資料7にNGOカルナトラストの組織図を示す)。
⑤NGOカルナトラストは、州政府のワクチン接種プログラムの実行部隊として活動しており、州政府と密接な関係にある。

NGOカルナトラストのHonorary SecretaryであるDr. Sudarahan氏は、ワクチン接種は本NGOの重点活動項目であり、ワクチン接種の品質向上と、ひいては地域住民の健康維持・改善に役立てるため、是非、本事企業体と共同して草の根無償ODAに応募したいとの意向であり、平成25年度のスケジュールに合わせDraft Applicationを作成することとなった。

(4)実施体制及びスケジュール
実施に当たっては、NGOカルナトラスト側からはHonorary SecretaryのDr. Sudarahan氏を含む数名、共同企業体である株式会社スギヤマゲンから4名、株式会社東京医療コンサルティングから2名をプロジェクトメンバーとして選抜することを予定している。
スケジュールの概要(予定)を以下に示す。

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平成25年2月~4月 Draft Applicationを作成する。
平成25年4月~5月 Draft Applicationについて、インド国現地大使館と事前協議をする。
平成25年6月~7月 Application Documentをインド国現地大使館へ提出する。
平成25年末 草の根無償事業として採択される。
平成26年初頭 草の根無償事業の贈与契約を締結する。
平成26年初頭~年度末 ベースライン調査を行う。
平成26年4月~5月 草の根無償事業により「バイオボックス・プラス」一式他、資器材を供与する。
平成26年6月~8月 資器材を用いてプランを実施し、データを収集する。
平成26年9月~10月 中間報告、改善プランの策定と再教育する。
平成26年11月~平成27年1月 改善プランを実施し、データを収集する。
平成27年2月~3月 最終報告、今後の事業について策定する。

(5)協力額概算等
カウンターパートである現地NGOと以下のような内容で検討協議中である。
対象ヘルスセンター数:15センター

表-5 必要資器材および協力額概算

(6)事業実施による効果
NGOカルナトラストとの草の根無償事業実施によるインパクトを次のような仮説を基に算出したところ、5年間で8,400接種のワクチン失効を回避できると推定できる。ただし、この算出で使用した過冷却を原因としたワクチンの失効率(1.4%)については、信頼できる確たる情報が存在しないことから、実際にはこれをはるかに上回る過冷却による失効が実態である可能性もあり、その場合事業実施による効果は想定を上回ることとなる。
<仮説>
・対象施設数:15施設
・1施設当たりのワクチン接種数:約8,000接種/年(注2)
・「バイオボックス・プラス」の導入により過冷却を回避することで改善されるワクチンの失効率:ワクチン数の1.4%

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・「バイオボックス・プラス」の耐用年数:5年
(注2)NGOカルナトラストの一つのヘルスセンターは、2万人~3万人の人口を担当していることから、センター当たりの担当人口を2.5万人と仮定。妊娠中の女性には2種類のワクチン接種と、2歳までの乳幼児には13種類のワクチン接種が推奨されている。乳幼児数と同数の妊娠中女性が存在することから、新生児数に15を乗じた数をその人口に接種が必要なワクチン数と仮定。インド国の出生率は、総務省統計局のデータによれば21.3(人口1000人当り21.3人)(注3)である。よって、NGOカルナトラストのヘルスセンターでは一施設で約8,000接種/年(2.5万人/0.1万人×21.3×15)の接種が行われている計算となる。
(注3)出典:人口ウォッチャー http://www.jinko-watch.com/kuni/003.html
インド統計元:総務省統計局

対象として想定する15施設でのワクチン接種数は約120,000接種であり、ワクチン廃棄率は全体の1.4%であることから、年間1,680接種、つまり1,680人が無効なワクチン接種を回避できるものであり、120,000人が安心してワクチン接種を受けることを可能とする。
草の根無償により「バイオボックス・プラス」の効果が認められ、NGOカルナトラスト全体に導入が図られた場合、年間約85,000人が無効なワクチン接種を回避でき、約60万人が安心してワクチン接種を受けられるようになると推定できる。

4-3 他ODA案件との連携可能性

インド国は、ポリオ野生株残存4カ国のうちの1カ国であり,ポリオ撲滅に向けた最重点国の1つである。
インド国政府は1995年から各国ドナーの協力を得てポリオワクチンの全国一斉投与及び追加一斉投与を実施しており、本件は北東部のアッサム州及び西ベンガル州において2011年に実施する封じ込め接種のための追加一斉投与(SNID:Sub-National Immunization Days)に必要なポリオワクチン(約58万バイアル)等を供与するものである。
本件協力により、同国北東部の2州(西ベンガル、アッサム)における約360万人の5歳未満児のポリオ感染が予防され、ポリオ撲滅に向けて大きく貢献した。
2012年1月には1年間発症例をゼロに抑えることに成功し、ポリオウイルス常在国ではなくなった。しかしながら、依然として再流行の可能性が低くないことから,ポリオ撲滅を完全に達成するため、インド国政府は引き続き子ども達の免疫を高める全国的な努力を行っていく。
今後は、「ポリオ撲滅計画」も含めたワクチン接種の実施活動において、「バイオボックス・プラス」の利用を働きかけていく。

4-4 その他関連情報

(1)日本大使館からの関連情報
・近年の草の根無償の実施件数は、大使館で5件/年程度、コルカタとチェンナイとムンバイの総領事館で各3-5件/年程度であり、インド全体では15から20件ぐらいである。
大使館の実施案件のうち、健康関連は1/5ないし1/4となっている。また、大使館で

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の申請受領件数は50件/年程度である。
・草の根無償資金協力では、特にローカルNGOを優遇しているわけではないが、インドで実施されている案件は、結果として、ローカルNGOのものがほとんどとなっている。
・注意点として、動かすことができる大きさの製品の場合は、盗難への対応や目的以外に使用されていることがないかという問題にも対応策を考えることが必要である。

(2)JICAインド事務所からの関連情報
・インド国政府から「バイオボックス・プラス」を購入したいという要請があっても、テスト的に100個等の単位で購入することは考えられなくもないが、コールドチェーンシステムの一部のパーツとして購入してもらう必要があることと、システムの改善ノウハウの提供などがセットにならなければならない。
・草の根技術協力について、以下の説明があった。
①日本のNGOが現地のNGOと組む必要がある。
②インド国では農業関係が多く、州の下の県の下の村レベルで、20村程度を対象にしている。
③資材の購入は少なく、全体予算1億円のうち100万円程度が実際である。
④研修センターを建設するなどは可能である。
⑤AHSA:日本の団体。母子保健について活動中。
IWVS: 日本の団体。インド国福祉村協会。建設した病院のスタッフ教育を行っている。
TPAK:地球市民アクト神奈川。思春期の女子を対象に活動中。
⑥草の根技術協力の採択にあたっては、日本のNGOと現地のNGOの申請前の連携が重視される。
・将来のインド国での草の根技術協力の中で、「バイオボックス・プラス」がコンポーネントの一つとして使用されることは考えられる。ワクチン接種の意識を高めるのと並行して、技術を高めるために使ってもらうというのはどうか。
・全く別の使用用途として、農産物が輸送の問題で大量に破棄されているので、政府も問題視していることもあり、現地パートナーを見つけることができれば、農産物で展開するのはどうかという提案があった。
・公共調達は最終的に価格競争に陥りやすいので、治験や検体輸送などのビジネスと並行して行うのでいいのではないか。

(3)過去の無償資金協力(2006年~2010年)
2006年
インド国におけるポリオ撲滅計画(UNICEF経由) (4.56億円)
草の根文化無償(1件) (0.08億円)
草の根・人間の安全保障無償(18 件) (1.32億円)
2007年
インド国におけるポリオ撲滅計画(UNICEF経由) (2.12億円)
草の根文化無償(1件) (0.04億円)

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草の根・人間の安全保障無償(24件) (1.80億円)
2008年
インド国におけるポリオ撲滅計画(UNICEF経由) (2.09億円)
日本NGO連携無償資金協力 (1件) (0.04億円)
草の根・人間の安全保障無償 (25件) (2.10億円)
国際機関を通じた贈与 (1件) (0.05億円)
2009年
インド国におけるポリオ撲滅計画(UNICEF経由) (2.05億円)
日本NGO連携無償(1件) (0.11億円)
草の根文化無償(1件) (0.05億円)
草の根・人間の安全保障無償 (22件) (1.68億円)
国際機関を通じた贈与(1件) (0.77億円)
2010年
ポリオ撲滅計画(UNICEF連携) (1.92億円)
日本NGO連携無償(1件) (0.11億円)
草の根・人間の安全保障無償 (20件) (1.69億円)
(参考文献)
1.外務省 政府開発援助(ODA)国別データブック 2011 [1]インド, 3.インドにおける援助協調の現状と我が国の関与, p131-p134
http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/ODA/shiryo/kuni/11_databook/pdfs/02-01.pdf

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現地調査資料(PDFがダウンロード出来ます)

資料1 調査スケジュール

資料2 面談記録

資料3 記録写真

資料4 ワクチン接種チェックシート(Pune Municipal Corporation)

資料5 収集資料リスト

資料6 ワクチン輸送用ボックスの必要量

資料7 カルナトラスト(Karuna trust)組織図

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別 添(PDFがダウンロード出来ます)

1.「バイオボックス・プラス」プレゼンテーション資料(パワーポイント)

2.Handbook for Vaccine & Cold Chain Handlers

3.VACCINE WASTAGE ASSESSMENT

4.Karuna trust (パンフレット)